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あまちゃん:東京編 [ドラマ]

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■前半「故郷編」に続いての「東京編」です。あらかじめお断りしておきますが今回かなり長いです。まあ朝ドラにこれだけハマったのは空前絶後ということで、ご容赦いただきたい。本編からナレーションが宮本信子から主演の能年玲奈に変わった。そして最後の一ヶ月は役の上で宮本信子の娘であり能年玲奈の母である小泉今日子。これは3代に渡る母娘の物語だという象徴ですね。

■海女さんが目標だった「故郷編」とは異なり、アイドルが目標になったアキは、以前逃げ出した東京に戻ってくる。しかも相棒たるユイちゃん(橋本愛)はお父さんの急病で上京できず孤軍奮闘。水口(松田龍平)をはじめスタッフには冷遇される。でも劇場である「東京EDOシアター」の「奈落」と呼ばれる場所で、同じく地方出身のアイドル候補生「GMT(地元)」のメンバーと出会う。同時期に大女優鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の付き人となって、アキの世界は大きく広がっていく。おまけに劇場の近所の「無頼鮨」に初恋の相手の種市先輩(福士蒼汰)が見習いとして入って、っていう話。

■あらすじをたどるのが本題じゃないのでこのへんにしておくが、ウニ取れないとか失恋とかの多少の挫折があったけどおおむね理想通りに行った「故郷編」とは違い、「東京編」は筋としては結構厳しいし、アキは度々苦境に追いやられる。でもさほどキツい感じにならないのは、クドカンが半ば使命感的に小ネタを挟んでくるところと、要所要所で北三陸の面々のシーンが挟まれてくるところ。同じく地方出身者としては(アキは厳密には違うけど)、いわゆる「都会の厳しい現実と地方の癒し」的なパターンがよく分かる。でも実際は大部分の地方はぶっ壊れてて現実は違うんだけどね。でも制作陣は、そこを何とかしたいという気概で臨んでいると思いたい。

■話は「故郷編」と比べてテンポが凄くスピーディーなんだけど、前半に蒔かれてた伏線がすごく回収されてる。クドカン凄いよ、としか言えない。地方アイドルだったアキが上京して奈落に落ちて、その後独立して紆余曲折を経て多少売れっ子になり、それに母親の春子と鈴鹿ひろ美の確執がからんでくる。

■大友良英さんの劇伴も加速度的に素晴らしい。「潮騒のメモリー」ももちろん素晴らしかったが(キョンキョンでCD化)、「暦の上ではディセンバー」「地元へ帰ろう」とか。共作もあるけど凄すぎる。特に「暦の上ではディセンバー」。イントロのシンセは「A-ha」か?みたいだし曲超ポップだし。歌詞は秋元康すげえdisってるし(まあ話は通してるんだろうが)。音楽が話のキーになってるので、もちろんミュージカルではないが、音楽劇と言ってもいいと思う。朝ドラの音楽劇って史上初じゃない?(ちゃんと調べてません)

■アキが多少売れっ子になったあと、既定の話だけど2011年3月11日に東日本大震災が来る。このドラマは震災後まで描くというのは事前に知っていたので、どういう風になるのかなと思っていたのだけど、非常に丁寧な脚本と演出。視聴者のフラッシュバックを誘うような実写録画の引用は全面的に避け、街の崩壊はジオラマで(初回から出ている観光協会のジオラマはまさにこの伏線。恐るべし)、そして首都圏その他の離れた人々の地震直後の大事(おおごと)じゃない感、情報が集まって来ないで混乱する人々の描写。

■それだって、もしかしたら被災地の人の気持ちを逆撫でしていたのかも知れない。でも、100%受け入れられる表現なんてありえないので、その覚悟の上で物語を作ったクドカンとNHKの制作スタッフはすごく誠実だと思う。

■覚悟を決めてクドカンはこのドラマに挑んだと思う。以降、やや長くなるが「Cut 2013年8月号」のインタビュー転載。

『自分がギャグを書くのをやめたって誰も得しない。逆に書き続けたら喜んでくれる人はいるはずだと。これまでも、これから先も、俺が人のためにできることってこれしかないんですかって、みんな思ったと思うんですよね。そこで表現をストップすることって、なんか意味がすり替わってると思うんですよね。でも、そういう風潮はあったじゃないですか。みんなそれぞれの考えがあって、それを言い始めたら、今「あまちゃん」をやってること自体も……「東北の海に入るなんて!」って言ってる人もいるわけじゃないですか』

『でも、そういう中で「あまちゃん」で何か言えることがあるとしたら……それでも人は笑いを求めるというか、それでも人は救いを求めるというか、希望を求める。それは時として不謹慎な言葉になったりすることがあっても、それでもやっぱり笑いたい、笑って元気になりたいんだよ、っていうことは、言えるんじゃないかなというか、言わなきゃいけないんじゃないかなと思って。「おまえ不謹慎なやつだなあ」って言われるのを怖がっててもしょうがない』

■どんだけの覚悟だよ。クドカンのこの意志は震災後の各キャラの台詞にすごく反映されてます。文句のある人は前に出なさい。

■繰り返すけどこのドラマは音楽劇であり、キーの曲は「潮騒のメモリー」と「いつでも夢を」(もちろん大友さんのオリジナルではないが、詞曲共に名曲というのを今回初めて気づいた)。もうひとつは最初に聴いた時は凡庸に思えた「地元へ帰ろう」。このドラマが重きを置いてるのが、東京と地方の2軸というのは同意していただける方も多いと思う。そして東日本大震災をきっかけとして、多くの人がそれを考えることになったのかなと。以下はラジオでの大友さんのトークの受け売りだけど、クドカンの凄いところは、「故郷」でなくて「地元」というネーミングだと。「故郷」は選べないけど、「地元」だと今住んでるところ(例えば青物横丁)でもいい訳だし。アキは実際は東京出身だけど北三陸が「地元」。つまり、自分の性格形成を決定づけた「地元」を人は自由に選べるということだ。目から鱗。

■エンディングはこれでよかったと思う、いやこれしかなかった。変なサクセスストーリーは要りません。っていうか、クドカン脚本のドラマを多数見て来られた方々はお分かりだと思うけど、クドカンドラマのオチは「サクセスストーリー」でも「恋愛成就」でもないのです。話のオチはちゃんとあるけど、それ以外は、「いかに日常のプロセスを面白がれるか」っていうのが基本肝です。まさに最終週は「グランド・フィナーレ」とも呼べるべきもので、1回1回ごとに今までの伏線(だいたいね)を全部回収してきた。このドラマは音楽劇であるのはもちろん、群像劇でもあり、もっと言うならそれぞれの再生の物語(=逆回転!)なのだ。

■続編。能年玲奈とNHKの会長は希望してるらしいけど(商業的にはそうだよな)必要ないです。話がきちんと完結してるし、能年玲奈の今後を考えてもよろしくないと思う。まだ許されるならスピンオフ。前髪クネ男(勝地涼)とか勉さん(塩見三省)やいっそん(皆川猿時)とかね。本筋に関係ないところでやってもらいたい。

■以下は余談なんで飛ばしていただいてもいいです。このドラマで得した(とオレが思う)俳優さんについて書いておく。

・能年玲奈は最後に書くけど、80年代アイドルたる小泉今日子と薬師丸ひろ子については特に損得なし。二人とも芝居や存在感はとっくに認知されてるしね。でもこのドラマでキョンキョンと薬師丸が初共演っていうのは意外だったな。薬師丸はクドカンドラマの常連だし、キョンキョンも「マンハッタンラブストーリー」での出演歴あるしね。

・すごい得したのは杉本哲太と塩見三省。二人とも今までほとんどやったことのなかった「コメディリリーフ」を見事にこなして新境地を開いた。特に塩見三省(勉さん)はあまり話に絡んでこないのにエピソードはほぼ爆笑。

・荒川良々、皆川猿時は非常に面白かったんだけど、彼らの持つキャラとしてはまあ当たり前。古田新太も。あと、もうひとりのヒロイン、橋本愛は、黒髪ボブブチ切れキャラっていうのを他の映画とかで披露してるので特にプラスもないかと。知名度は上がったんだろうけどね。

・海女クラブのメンバーも非常に面白いのだがまあ想定内。ただ、夏ばっぱ(宮本信子)の存在感は圧倒的。夏ばっぱはこの人以外はたぶん演じられない。凄い。あ、でも安部ちゃん(片桐はいり)も得したかも。

・主役以外で得したのは、やはり松田龍平と小池徹平だろうな。特に松田はボーッとしたツンデレでファンがかなりキテるらしい。いままでスカした役が多かったので女性ファンはそんなでもなかったと思うのだけど、今や人気爆発だそうな。小池は見て分かる通りイケメンなんだけど、ネクラでヒロインに片思いする役っていうのが妙に合致してる。

・あ、でも一番得したのは、たった1話限りの出演ながら強烈な印象を残した、「前髪クネ男」こと勝地涼だと思う。これは笑うしかないでしょ。

・そして主演の能年玲奈。この役はまさにこの子のための役としか言いようがない。思い起こすと能年ちゃん出演のドラマや映画は以前いくつか見てたんだけど、あんまり印象に残ってなかった。でも、アキはおそらく能年玲奈にしかできない役だったんだろう。橋本愛と違い、いろんな角度から見ても美人だという訳じゃない。でも、この子のこのドラマでのパフォーマンスは空前絶後。
余計なお世話だけど、「あまちゃん」っていうアイコンがついてしまった能年ちゃんの今後が気になる。今後は「じぇじぇ!」もインチキ東北弁も使えないし。でも雑誌のインタビューで読んだけど、目指すは「平成のコメディエンヌ」だって。演技力が優れてないとコメディエンヌにはなれない。方向は間違ってない。頑張れ能年玲奈。

■最後に。たぶん自分が見た中で史上最強の朝ドラだったと思うし、今後も変わらないでしょう(50年後は知らないけどね)。脚本の宮藤官九郎さん、素敵な音楽劇にしていただいた劇伴の大友良英さん、そしてNHKの制作スタッフの皆様、最後に主演の能年玲奈さんと助演のみなさん、本当にありがとうございました。

■おまけ。宮本信子さんのブログより引用。みなさん素人みたいな表情。現場楽しかったんだろうな。

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■最後の追記。この物語が連ドラという形態がすごく残念。もちろん映画等と比べて差別している訳ではない。総放送時間が39時間という長時間に及ぶので、再確認しようにもしづらい状況。実はこのドラマ、噛めば噛むほど味が出ます。いろんな物語に全部と言っていいくらい伏線が張ってあり、それを一回の鑑賞だけで見破るのはほぼ不可能。しかも毎回毎回小ネタが仕込まれてるので、総集編とかを見ても良さは半分も分からないと思う。一般の人にとっては、昔のテレビゲームのような贅沢な時間の浪費かも知れない、なんの役にも立たないし。オレみたいにドラマを全録画してて再見するという余程のマニア以外は無理かも。

■2016/7追記。前の方で「朝ドラ初の音楽劇」と書いたけど、現在再放送中の『てるてる家族』がずっと前にやってました。大変申し訳ございません。石原さとみと上野樹里の若き日を見れるということではいい再放送です。演出も、2003年当時ということを差し引いても斬新だし。ただまあ、朝ドラとしては天下の大根役者・浅野ゆう子がかなり台無しにしてるので、初めての平均視聴率20%割れもやむなしかと。すいません、『あまちゃん』には何の関係もないですね。

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