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「総合小説」の凋落と「総合漫画」の進出。 [小説]

■以前村上春樹氏がどっかで書いてたが、「総合小説」を書きたいけど、現状では個々人の置かれる状況が昔と比べて複雑すぎてとても無理だと。確かドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」を念頭に置いたコメントだったかなと。確かに今の日本文学(海外文学まではとてもカバーは無理)では、総合小説らしきものは見当たらない。

■しかし漫画の分野においては、ヒット作は長尺になる傾向が強い。「バガボンド」とかね。特にボクシング漫画「はじめの一歩」は作者が「登場人物はみんな主人公」と公言してるように、それって総合小説と似てない? というか総合漫画か。

■まあこのご時世の出版不況、小説だろうが漫画だろうが厳しい状況に置かれているのは間違いないんだけど、小説と漫画で真逆の反応っていうのは面白い。

■ただ「総合漫画」に限らず、漫画とか映画とか視覚的に情報量が多いものは、読者や視聴者の想像力をかなりの範囲で奪ってしまうのは確かだ。無粋を承知で書けば、映画とかだと監督がマーケティングの原則を分かってて、必要なシーンをぽっかり抜いて視聴者の想像力に委ねる、っていう作品は多々ある。これはプレゼンテーションの技術と似たところがある。

■そういう意味では、全部じゃないけど漫画は若干硬直化してるかも。小説だって新たな「総合小説」って、昔と違った視点で書くのは不可能ではないと思う(お前が書けよ、って言われても無理だから)。村上春樹氏も「1Q84」でトライしてるのは分かるんだけど、自分的には「総合小説」とは思えない現状。

「グラスホッパー」 [小説]

■伊坂幸太郎。最近はまってるのは言うまでもない。

■これも2004年の作品なのだが、読んだのはつい最近。不覚。伊坂作品にしては珍しく時間軸のトリックがないし仙台が舞台でもない。が、人が沢山死ぬのである。伊坂なりのハードボイルド(出来が悪いという意味ではまったくない)。

■じつは数年前に友人のみひさんに指摘されていたのだが、彼ほど当たり外れのない作家はそういない。改めて自覚。おそらく彼の現時点での最高傑作であろう「ゴールデンスランバー」を読んだ後にこの作品を読んでも全く色あせてない。凄いの一言。

■ま、現時点で今回の直木賞は受賞作が発表されているが、伊坂幸太郎は「ゴールデンスランバー」でのノミネートを辞退したのでもちろん受賞してない。理由には諸説がある。「選考対象にされると作品の執筆に集中できない」(これは本人談)、あと「受賞作だ」ということで本が売れることには抵抗がある(これは本人談と言われているだけで裏付けはなし)とか。

■何でだろうね。以下全部推測。いい加減ノミネーションだけされて騒がれるのが嫌になったとか。「賞」で本を買う人に抵抗があったとか。もしくは本人が「直木賞」というカテゴライズ(=大衆文学)に括られるのが嫌だったのか。本心は分からない。

■しかし言いたいな。そんな低いレベルでぐだぐだしてないで取れるものはとっとと取っちまえよ。少なくとも「ゴールデンスランバー」にはそれだけの価値がある小説だ。一旦賞を取ってしまえば、それこそ、受賞第1作とかは騒がれるかも知らんけど、そのあとは実力勝負だ。で、「直木賞」を取ったから、と言ってあなたの小説を手に取ってみた人間も、かなりの部分があなたの小説にはまるはずだ。

■最初の小説のカテゴライズはあまり関係ない。どういう作家になれるかは、その人の意志と方向性ではないかな。

■少なくとも伊坂さんが商業的な成功を第一義としていないことはみんなに伝わったと思うので、次はどーんと直木賞に向かってって貰ってもいいんじゃないかな。

「ゴールデンスランバー」 [小説]

■伊坂幸太郎の今一番売れている小説である。

■これに関しては論評を必要としないくらい凄いのだ。ま、伊坂幸太郎の「弱点」として、仙台が舞台の小説が多すぎる(全部ではないが)と言う思いがあったのだが、実は彼と私は同じ仙台の大学の卒業生である。伊坂自身は本人が未だに仙台に在住していることもあって(本人は仙台出身ではない)、「知っている街だと嘘が構築しやすいから」と言っていたとか。でもこの小説も仙台が舞台なのだが、それは全然マイナスになっていない。

■とにかくジェットコースター的な話の流れと、単なるミステリーにとどまらない、恋愛小説っぽいところとか、権力に対するアンチテーゼとかも含めた総合エンターテイメント小説です。

■今はハードカバーでしか出てないので、せこい読者(俺も含む)にはちょっと敷居が高いかも知れないが、いまはたぶんこの作者の「旬」である。本好きなら今読んで欲しい。