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「あまちゃん」完全シナリオ集(第1部&第2部) [ドラマ]

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■そろそろ「あまちゃん」関連のエントリは止めようと思ってたのにな。11/30に発売された脚本集の熱量がハンパないのでついうっかり。まあ普通の人はドラマのノベライズは読むかもしれないけど、シナリオ自体はたぶん読まないよね。わたくし20数年前は脚本家を目指して勉強してた時期があったので(モノになりませんでしたが)、シナリオ本を読むのには違和感ないし、結構脚本集買ってました。でも最近は脚本集自体の出版が少ないので、脚本を読もうと思ったら「シナリオ」とか「ドラマ」とかの専門誌くらいしかない。ごく最近の脚本集では、岡田惠和さんの「泣くな、はらちゃん」くらいですか。買ったけど(笑)。そもそも朝ドラの脚本集の出版自体がかなりレアでは?(調べてません)

■「あまちゃん」のストーリー自体は、このブログを読まれてる方はご存知だと思うので繰り返さないけど、この脚本集は実際の放送脚本でなく放送前のいわゆる「決定稿」がベースだと思われます。なので、尺の都合でカットされたシークエンスとか台詞とかが満載で、マニアには垂涎ものかも。

■逆に言うと、「潮騒のメモリー」の再映画化で太巻(古田新太)がアキに稽古をつけてるシーン(「生まれたての鹿」のところ)は脚本では書かれてなかったりするのがおかしい。ホントにアドリブだったのね。キャストも演出陣もグッジョブ。

■先述したけど、脚本ではあるけどオンエアでは省かれてるシーンもある。夏ばっぱの海女引退宣言後、アキが海女クラブ会長を引き継ぐシーンとか、無頼鮨の大将の黒歴史とかね。本来、映像作品はそのもので判断されるべきだと思いますが、「あまちゃん」に関しては脚本という点でも評価されるべきだと思います。つーか、こんな密度の濃い脚本を書けるクドカンを人間とは思えないっす。

■あと、決定稿以降はおそらくかなりの比率で撮影自体はされてたのではないでしょうか(推測)。そこは放送時カットは尺の関係で仕方ないとしても、それをパッケージ化(DVD/BD)の際に収録できなかったのかというのが残念。「ディレクターズ・カット」ってのがあるでしょ。逆に劇中の往年の某アイドル歌手のクレームでパッケージでその辺がカットされたとか何とかって噂もあるし。

■NHK、男気見せてくれよ! ディレクターズ・カット版、頼む!

■おまけ。脚本家を目指す若い人は(まあそういう人はこのブログは読んでないだろうな:笑)、この脚本集は絶対読んどけ。でも超天才の脚本だから絶対真似できねえ。でも読んどけ。あーあ、オレがクドカンより10歳若けりゃなあ(苦汁)。





「あまちゃん」以外の宮藤官九郎脚本の連続ドラマ [ドラマ]

■「あまちゃん」終わっちゃいました。ええ2週間以上前に。心に欠落した部分を抱えてるのはオレだけではないでしょう。だからと言うわけではないけど、クドカン脚本の連続TVドラマを全部見ている暇なオレ様が何らかの助けになればと、無謀にも全連ドラのレビューをやろうと思い立った。脚本を書いた映画は何本か見落としてる部分があるし、もちろん舞台も、バラエティもここでは触れません。

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■1つ目はクドカンの連ドラデビュー作である「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)。原作はご存知石田衣良。クドカンのドラマの脚本で原作があるのは、これと後述の「流星の絆」くらいだと思う。池袋西口公園(今年初めて行った)が舞台の地元の若者たちの群像劇。原作は結構ハードボイルドなんだけど、割合コミカルになってる。役者陣が長瀬智也、加藤あい、坂口憲二、佐藤隆太、山P、妻夫木聡などなど超豪華。クドカンのドラマの中では唯一続編(スペシャル)が作られている作品。でも今から考えると若干硬かったかも。

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■2つ目は、たぶん織田裕二の中では黒歴史的な「ロケット・ボーイ」(2001年)。フジテレビでクドカンがドラマを書いたのは現時点でこれ1作です。オファーは殺到してると思うけど、後述の理由でたぶんクドカンはいやになってしまったのではないか。宇宙飛行士を目指していたけど諦めてサラリーマンやってる織田裕二とその仲間(ユースケ・サンタマリア、市川染五郎)の話。題材いいと思ったんだけど、織田くんが椎間板ヘルニアで結局全7話になってしまい、クドカンの連ドラの中では唯一パッケージ化されてないという悲しいお話でした。予定通り全11話とか12話だったら、結構面白い話になってたと思う。放送休止の間にやった「踊る大捜査線」の再放送(面白いドラマだとは思うけど)の視聴率の方が良かったという皮肉な結果になった。

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■3つ目。視聴率は大して良くなかったみたいだけど、このドラマがクドカンが評価される礎になったのではないかと勝手に思っている「木更津キャッツアイ」(2002年)。木更津の高校を卒業した後大部分はまともな職についてない野球部の同窓生。連中がなぜか窃盗団を作って活躍する話。主人公のぶっさん(岡田准一)は癌で余命半年。なんでこんな破天荒な話思いつくかな。これについてはあらすじを書いてもさほど面白くないので、続編の映画2作も含めて是非見てもらいたい。クドカンのドラマの続編で映画が作られたのはこれが初めて。佐藤隆太や塚本高史はこのドラマでメジャーになったし、「あまちゃん」出演の古田新太、薬師丸ひろ子もこれがクドカンドラマ初登場。見たほうがいいかもね。

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■4つ目。これはクドカンファンの中でも評価はさほど高くないが、オレは大好きな作品「ぼくの魔法使い」(2003年)。伊藤英明(道男)と篠原涼子(留美子)のバカップルはラブラブ過ぎて、大手広告代理店での海外単身赴任を断り退職、その結果代理店と勘違いして街の便利屋の「広吉代理店」に就職してしまう。そして留美子は街中の自転車で学習塾経営の青年実業家の田町(古田新太)と頭が激突し、難しいことを考えるとお互いの人格が入れ替わってしまうという話。マジ面白いのでレンタDVDとか借りられる方は是非見てください。小ネタですが、このドラマのメイン演出の水田伸生さんは、この後「舞妓haaaan!!!」「なくもんか」「謝罪の王様」とクドカン脚本の3映画の監督を務めている。

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■次5本目行きますよ。「マンハッタンラブストーリー」(2003年)。これもいわくつきのドラマ。放送枠が木曜夜10時で、裏番組はあの「白い巨塔」。残念ながら視聴率は常に一桁台で、時には同時期に深夜に再放送されていた「木更津キャッツアイ」の視聴率すら下回ってたそうです。この頃のオレは毎日半徹夜くらいの多忙でプライベートな記憶はほぼ飛んでいるのだけど(泣)、ドラマは面白かったと思う。裏が悪かっただけでTBSの編成が悪い。このドラマでは、小泉今日子と尾美としのりがクドカンドラマに初登場。「あまちゃん」ファンにはたまんないでしょ? ちなみに尾美としのりの職業は「あまちゃん」と同じくタクシードライバー。

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■6本目。ゼイハア。「タイガー&ドラゴン」(2005年)。クドカンのドラマは評判がいい割に視聴率がイマイチ、ということで年初にスペシャルドラマを放送し、その勢いで連ドラにした、らしい。これも「あまちゃん」ファンには見逃せないドラマ。尾美としのりと荒川良々がレギュラーだし、薬師丸ひろ子もゲストで出てる。で、脚本の話がすべて落語のお題に絡んでくるという重層的なストーリー。これで当時落語ファンが増えたらしい。

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■7本目。「吾輩は主婦である」(2006年)。すでに超売れっ子であったクドカンが昼の帯ドラマの脚本を担当するなんて前代未聞だったと思う。このドラマはいつもと違い、クドカン組があまり出ていない。ミッチー(「マンハッタンラブストーリー」)や、尾美としのり、桐谷健太(「タイガー&ドラゴン」)と、同じ「大人計画」所属の猫背椿と池津祥子くらいかな。
まあでも面白いんですよ。レコード会社に勤めていながらいきなり辞職した夫たかし(ミッチー)が理由でド貧乏になってしまったみどり(斉藤由貴)に、なぜか夏目漱石の霊が乗り移るという話。
当時はもちろん意識してなかっただろうけど、今考えると「あまちゃん」の練習台だった気もする。帯ドラマの話の流れという意味で。これ、ファンでも帯ドラマなんで見てなかった人が多いと思うのですが、お勧めです。

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■8本目。「未来講師めぐる」(2008年)。テレ朝の深夜枠と言うせいなのか、かなりユルイけど爆笑できたドラマでした。満腹になると人の未来が見えてしまう塾講師めぐる(深田恭子)とその周りの人の話。これはあらすじ書くと逆効果だと思う。爆笑につぐ爆笑だし、塾長(武田真治)の思いつきで毎回学習塾の名前は変わるし、しかも塾長はズラ! このドラマはクドカン組の星野源や勝地涼が仕込まれてて爆笑でした。「前髪クネ男」のバカ男ルーツはこれだったのか? 個人的には大好きだけどあまりオススメはしません。DVD-BOX買ってないので、映像特典の「未来ナースめぐる」は超気になるけど。

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■9本目。「流星の絆」(2008年)。これは、連ドラでは「池袋ウエストゲートパーク」以来の原作ありのクドカン脚本です。東野圭吾さんはオレが言うまでもなく大ベストセラー作家であり、結構好きなのでかなり作品は読んでた。これも原作はもちろん読んでたのだけど、お笑い場面が殆ど無くハードな展開だったのでどういう出来になるかとドキドキ。結果面白かった。東野圭吾さんは映像化に伴うストーリー改変については寛容な方らしく、まったく原作にない「妄想係長 高山久伸(桐谷健太)」のエピソードとか超爆笑。クドカン組のキャストは今回も少ないけど、尾美としのり、桐谷健太、森下愛子(「木更津キャッツアイ」他多数)とかでツボは抑えてた。

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■10本目。「うぬぼれ刑事」(2010年)。ま、TBSに偏り過ぎな気もするけど、正直「あまちゃん」が放送されるまでは、このドラマがクドカンNo.1だと思ってました。マジで。「バカハンサム」キャラは「タイガー&ドラゴン」で確立してた長瀬智也くんですが、このドラマでは際立ってましたね。容疑者に常に惚れてしまうバカな刑事の役とか。このちょい前に「キミ犯人じゃないよね?」っていうテレ朝のドラマがあって、貫地谷しほり主演で相棒が要潤(刑事役)だったのだが、要潤が毎回犯人に惚れてしまうというこれと同じ設定で、クドカンは驚愕して「じゃあ要潤をキャストに入れちゃえばいいじゃん!」という話だったんだそうな。
「あまちゃん」ファンの方にももちろんお勧めです。レギュラーで荒川良々は出てるし、ゲストでキョンキョン、皆川猿時、薬師丸ひろ子も出てますので。

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■最後の10本目です。「11人もいる!」(2011年)。このタイトルは明らかに、萩尾望都さんの漫画「11人いる!」のパロディです。話の内容は全く関係ないけど。このドラマもクドカン組の出演は少ない。メインキャストの神木隆之介は「ぼくの魔法使い」にゲストで出ているが(ぬっくんの子供の時の役)、広末涼子はクドカンドラマ初出演。「あまちゃん」組では皆川猿時くらいかな。生活力はないが繁殖能力がすごく高い父親(田辺誠一)を始めとする大家族。末っ子(加藤清史郎)は突然亡くなった父親の前妻(広末)の霊が見えるようになる。孤軍奮闘して一家を支えている長男(神木)も実は繁殖能力がすごく高かった、というエピソードは爆笑もの。あ、そうそう、若春子(有村架純)が長女役で出てます。

■以上、あまロスにお悩みの方は、気に入ったドラマを選んで見るのもいいかもです。でも一番いいのは、久慈市のロケ現場に行って自分の目で見ること。参考はこのエントリ。首都圏からはちと遠いし、これから寒くなるけどね。



あまちゃん:東京編 [ドラマ]

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■前半「故郷編」に続いての「東京編」です。あらかじめお断りしておきますが今回かなり長いです。まあ朝ドラにこれだけハマったのは空前絶後ということで、ご容赦いただきたい。本編からナレーションが宮本信子から主演の能年玲奈に変わった。そして最後の一ヶ月は役の上で宮本信子の娘であり能年玲奈の母である小泉今日子。これは3代に渡る母娘の物語だという象徴ですね。

■海女さんが目標だった「故郷編」とは異なり、アイドルが目標になったアキは、以前逃げ出した東京に戻ってくる。しかも相棒たるユイちゃん(橋本愛)はお父さんの急病で上京できず孤軍奮闘。水口(松田龍平)をはじめスタッフには冷遇される。でも劇場である「東京EDOシアター」の「奈落」と呼ばれる場所で、同じく地方出身のアイドル候補生「GMT(地元)」のメンバーと出会う。同時期に大女優鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の付き人となって、アキの世界は大きく広がっていく。おまけに劇場の近所の「無頼鮨」に初恋の相手の種市先輩(福士蒼汰)が見習いとして入って、っていう話。

■あらすじをたどるのが本題じゃないのでこのへんにしておくが、ウニ取れないとか失恋とかの多少の挫折があったけどおおむね理想通りに行った「故郷編」とは違い、「東京編」は筋としては結構厳しいし、アキは度々苦境に追いやられる。でもさほどキツい感じにならないのは、クドカンが半ば使命感的に小ネタを挟んでくるところと、要所要所で北三陸の面々のシーンが挟まれてくるところ。同じく地方出身者としては(アキは厳密には違うけど)、いわゆる「都会の厳しい現実と地方の癒し」的なパターンがよく分かる。でも実際は大部分の地方はぶっ壊れてて現実は違うんだけどね。でも制作陣は、そこを何とかしたいという気概で臨んでいると思いたい。

■話は「故郷編」と比べてテンポが凄くスピーディーなんだけど、前半に蒔かれてた伏線がすごく回収されてる。クドカン凄いよ、としか言えない。地方アイドルだったアキが上京して奈落に落ちて、その後独立して紆余曲折を経て多少売れっ子になり、それに母親の春子と鈴鹿ひろ美の確執がからんでくる。

■大友良英さんの劇伴も加速度的に素晴らしい。「潮騒のメモリー」ももちろん素晴らしかったが(キョンキョンでCD化)、「暦の上ではディセンバー」「地元へ帰ろう」とか。共作もあるけど凄すぎる。特に「暦の上ではディセンバー」。イントロのシンセは「A-ha」か?みたいだし曲超ポップだし。歌詞は秋元康すげえdisってるし(まあ話は通してるんだろうが)。音楽が話のキーになってるので、もちろんミュージカルではないが、音楽劇と言ってもいいと思う。朝ドラの音楽劇って史上初じゃない?(ちゃんと調べてません)

■アキが多少売れっ子になったあと、既定の話だけど2011年3月11日に東日本大震災が来る。このドラマは震災後まで描くというのは事前に知っていたので、どういう風になるのかなと思っていたのだけど、非常に丁寧な脚本と演出。視聴者のフラッシュバックを誘うような実写録画の引用は全面的に避け、街の崩壊はジオラマで(初回から出ている観光協会のジオラマはまさにこの伏線。恐るべし)、そして首都圏その他の離れた人々の地震直後の大事(おおごと)じゃない感、情報が集まって来ないで混乱する人々の描写。

■それだって、もしかしたら被災地の人の気持ちを逆撫でしていたのかも知れない。でも、100%受け入れられる表現なんてありえないので、その覚悟の上で物語を作ったクドカンとNHKの制作スタッフはすごく誠実だと思う。

■覚悟を決めてクドカンはこのドラマに挑んだと思う。以降、やや長くなるが「Cut 2013年8月号」のインタビュー転載。

『自分がギャグを書くのをやめたって誰も得しない。逆に書き続けたら喜んでくれる人はいるはずだと。これまでも、これから先も、俺が人のためにできることってこれしかないんですかって、みんな思ったと思うんですよね。そこで表現をストップすることって、なんか意味がすり替わってると思うんですよね。でも、そういう風潮はあったじゃないですか。みんなそれぞれの考えがあって、それを言い始めたら、今「あまちゃん」をやってること自体も……「東北の海に入るなんて!」って言ってる人もいるわけじゃないですか』

『でも、そういう中で「あまちゃん」で何か言えることがあるとしたら……それでも人は笑いを求めるというか、それでも人は救いを求めるというか、希望を求める。それは時として不謹慎な言葉になったりすることがあっても、それでもやっぱり笑いたい、笑って元気になりたいんだよ、っていうことは、言えるんじゃないかなというか、言わなきゃいけないんじゃないかなと思って。「おまえ不謹慎なやつだなあ」って言われるのを怖がっててもしょうがない』

■どんだけの覚悟だよ。クドカンのこの意志は震災後の各キャラの台詞にすごく反映されてます。文句のある人は前に出なさい。

■繰り返すけどこのドラマは音楽劇であり、キーの曲は「潮騒のメモリー」と「いつでも夢を」(もちろん大友さんのオリジナルではないが、詞曲共に名曲というのを今回初めて気づいた)。もうひとつは最初に聴いた時は凡庸に思えた「地元へ帰ろう」。このドラマが重きを置いてるのが、東京と地方の2軸というのは同意していただける方も多いと思う。そして東日本大震災をきっかけとして、多くの人がそれを考えることになったのかなと。以下はラジオでの大友さんのトークの受け売りだけど、クドカンの凄いところは、「故郷」でなくて「地元」というネーミングだと。「故郷」は選べないけど、「地元」だと今住んでるところ(例えば青物横丁)でもいい訳だし。アキは実際は東京出身だけど北三陸が「地元」。つまり、自分の性格形成を決定づけた「地元」を人は自由に選べるということだ。目から鱗。

■エンディングはこれでよかったと思う、いやこれしかなかった。変なサクセスストーリーは要りません。っていうか、クドカン脚本のドラマを多数見て来られた方々はお分かりだと思うけど、クドカンドラマのオチは「サクセスストーリー」でも「恋愛成就」でもないのです。話のオチはちゃんとあるけど、それ以外は、「いかに日常のプロセスを面白がれるか」っていうのが基本肝です。まさに最終週は「グランド・フィナーレ」とも呼べるべきもので、1回1回ごとに今までの伏線(だいたいね)を全部回収してきた。このドラマは音楽劇であるのはもちろん、群像劇でもあり、もっと言うならそれぞれの再生の物語(=逆回転!)なのだ。

■続編。能年玲奈とNHKの会長は希望してるらしいけど(商業的にはそうだよな)必要ないです。話がきちんと完結してるし、能年玲奈の今後を考えてもよろしくないと思う。まだ許されるならスピンオフ。前髪クネ男(勝地涼)とか勉さん(塩見三省)やいっそん(皆川猿時)とかね。本筋に関係ないところでやってもらいたい。

■以下は余談なんで飛ばしていただいてもいいです。このドラマで得した(とオレが思う)俳優さんについて書いておく。

・能年玲奈は最後に書くけど、80年代アイドルたる小泉今日子と薬師丸ひろ子については特に損得なし。二人とも芝居や存在感はとっくに認知されてるしね。でもこのドラマでキョンキョンと薬師丸が初共演っていうのは意外だったな。薬師丸はクドカンドラマの常連だし、キョンキョンも「マンハッタンラブストーリー」での出演歴あるしね。

・すごい得したのは杉本哲太と塩見三省。二人とも今までほとんどやったことのなかった「コメディリリーフ」を見事にこなして新境地を開いた。特に塩見三省(勉さん)はあまり話に絡んでこないのにエピソードはほぼ爆笑。

・荒川良々、皆川猿時は非常に面白かったんだけど、彼らの持つキャラとしてはまあ当たり前。古田新太も。あと、もうひとりのヒロイン、橋本愛は、黒髪ボブブチ切れキャラっていうのを他の映画とかで披露してるので特にプラスもないかと。知名度は上がったんだろうけどね。

・海女クラブのメンバーも非常に面白いのだがまあ想定内。ただ、夏ばっぱ(宮本信子)の存在感は圧倒的。夏ばっぱはこの人以外はたぶん演じられない。凄い。あ、でも安部ちゃん(片桐はいり)も得したかも。

・主役以外で得したのは、やはり松田龍平と小池徹平だろうな。特に松田はボーッとしたツンデレでファンがかなりキテるらしい。いままでスカした役が多かったので女性ファンはそんなでもなかったと思うのだけど、今や人気爆発だそうな。小池は見て分かる通りイケメンなんだけど、ネクラでヒロインに片思いする役っていうのが妙に合致してる。

・あ、でも一番得したのは、たった1話限りの出演ながら強烈な印象を残した、「前髪クネ男」こと勝地涼だと思う。これは笑うしかないでしょ。

・そして主演の能年玲奈。この役はまさにこの子のための役としか言いようがない。思い起こすと能年ちゃん出演のドラマや映画は以前いくつか見てたんだけど、あんまり印象に残ってなかった。でも、アキはおそらく能年玲奈にしかできない役だったんだろう。橋本愛と違い、いろんな角度から見ても美人だという訳じゃない。でも、この子のこのドラマでのパフォーマンスは空前絶後。
余計なお世話だけど、「あまちゃん」っていうアイコンがついてしまった能年ちゃんの今後が気になる。今後は「じぇじぇ!」もインチキ東北弁も使えないし。でも雑誌のインタビューで読んだけど、目指すは「平成のコメディエンヌ」だって。演技力が優れてないとコメディエンヌにはなれない。方向は間違ってない。頑張れ能年玲奈。

■最後に。たぶん自分が見た中で史上最強の朝ドラだったと思うし、今後も変わらないでしょう(50年後は知らないけどね)。脚本の宮藤官九郎さん、素敵な音楽劇にしていただいた劇伴の大友良英さん、そしてNHKの制作スタッフの皆様、最後に主演の能年玲奈さんと助演のみなさん、本当にありがとうございました。

■おまけ。宮本信子さんのブログより引用。みなさん素人みたいな表情。現場楽しかったんだろうな。

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■最後の追記。この物語が連ドラという形態がすごく残念。もちろん映画等と比べて差別している訳ではない。総放送時間が39時間という長時間に及ぶので、再確認しようにもしづらい状況。実はこのドラマ、噛めば噛むほど味が出ます。いろんな物語に全部と言っていいくらい伏線が張ってあり、それを一回の鑑賞だけで見破るのはほぼ不可能。しかも毎回毎回小ネタが仕込まれてるので、総集編とかを見ても良さは半分も分からないと思う。一般の人にとっては、昔のテレビゲームのような贅沢な時間の浪費かも知れない、なんの役にも立たないし。オレみたいにドラマを全録画してて再見するという余程のマニア以外は無理かも。

■2016/7追記。前の方で「朝ドラ初の音楽劇」と書いたけど、現在再放送中の『てるてる家族』がずっと前にやってました。大変申し訳ございません。石原さとみと上野樹里の若き日を見れるということではいい再放送です。演出も、2003年当時ということを差し引いても斬新だし。ただまあ、朝ドラとしては天下の大根役者・浅野ゆう子がかなり台無しにしてるので、初めての平均視聴率20%割れもやむなしかと。すいません、『あまちゃん』には何の関係もないですね。

半沢直樹 [ドラマ]

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■このクール「あまちゃん」と並んで(「あまちゃん」は4月からだけど)高視聴率で話題を独占し続けたドラマ。9/22最終回。別に高視聴率だから途中で見始めた訳ではなくて、いままでWOWOWで原作の池井戸潤さんの作品がドラマ化された「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」を見て面白かったから。まあ別に言い訳じゃなくて、どっちにしろ連ドラの初回は大部分見てる訳ですが。

■そしたらグイグイ引き込まれてさあ大変。ついKindleで原作の2作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」と、続編の「ロスジェネの逆襲」まで買って全部読んでしまった。アマノミクスの次は半沢に倍返しを食らった形である。視聴率もうなぎのぼりで、とうとう最終回は今世紀最高の42.2%まで行ってしまった。しかし、TV業界の方には大変申し訳ないのだが、ビデオリサーチ1社の調査で母数が明確にされてないサンプル、かつ録画視聴率は加算されてないって、あまりに「うつろいやすい」数字じゃないでしょうか。あすいません、そんなこと言いたいわけじゃないです。

■話の筋は単純明快。メガバンクにバブル期に入行した半沢直樹が、上司に理不尽なことを要求され罪をなすりつけられそうになり、それに対し敢然と立ち向かうという話。あ、終わってしまいました。でもそれだけなんですよ。ストーリーはかなり漫画的かつ時代劇的。さすが「水戸黄門」のTBS、ではなくて、あらすじは全体的にホラ話に近い。いや普通上司に「倍返しだ!」とか言わないでしょ。しかし元バンカーの原作の池井戸さんらしく、ディテールにいちいちリアリティがある。

■オレは、細かいところをちゃんと積み上げて説得力が出れば、話は大ボラでもエンタメとしては全然いいと思ってます。それを小銭を稼ぎたいのかどうか知らんけど、池田信夫センセのような知ったかをする方も多々いらっしゃるようだし。批判をするならもっと建設的にやれよな。

■また役者が濃い人ばっかり。主演の堺雅人をはじめとして、香川照之、北大路欣也、及川ミッチー(ちと薄いかな)、石丸幹二などなど。金融庁の片岡愛之助には爆笑。あんなオネエ言葉の検査官いるわけねえし。あとは滝藤賢一が良かったな。今までは「踊る大捜査線」の「中国から交換研修生で来た王さん」ってイメージしかなかったので。上戸彩は・・・まあどうでもいいや。そんな顔で芝居ができる濃い人ばっかりでかつ、後半はメチャクチャ顔のアップのカットが多い。いやいやこりゃ時代劇でしょ。

■ドラマも終わったので多少のネタバレもいいと思うけど、このドラマ、原作に結構忠実。「倍返しだ!」っていうのも原作の台詞にあるし、話の流れは盛ってるところはあるけどおおむね共通。前編にも大和田常務(香川照之)が出てくるところとか、半沢の父親(笑福亭鶴瓶)が大和田に融資を断られて自殺したっていうあたりはドラマオリジナル。結末もほぼ一緒だけど、大和田の罰が軽くなるところは少し違うかな。原作の池井戸さん(オレと同い年だって。すげーな)のスクリプトが優れてたのと、それを最大限に活用したTBSの演出チームの勝利だと思います。あとはタイトルね。原作通り「オレたち花の〜」とかだったら、たぶん視聴率は全然ついてこなかったと思います。「半沢直樹」っていう漢字4文字がいい。

■以下余談。高校の同級生に某メガバンクの行員がいるのだが、「『半沢』で嫌なのは『出向』が銀行員の墓場みたいな表現はちょっとな」と。そりゃそうだよね。出向もいろんな種類あるし、だいたい最終的には9割以上の銀行員は出向するらしいし。

■面白いドラマではありました。続編もたぶんあるだろうし、あのエンディングではね。心配なのは、10月からも「リーガル・ハイ」でテンションの高い主演を続ける堺雅人の血管が切れてしまわないかということです。



あまちゃん:故郷編 [ドラマ]

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■まあ、何の説明も必要ないでしょう。2013年4月から、主演:能年玲奈、脚本:宮藤官九郎(クドカン)で放映されているNHK連続テレビ小説(そろそろこの言い方止めたほうがいいと思うけど)。本当は9月末で話が完結してからブログに上げたかったんだけど、とてもあと3ヶ月も待てない、ってくらいにハマってしまったドラマなのだ。こんなにNHKの朝ドラにハマったのは、「鳩子の海」以来かも。メチャクチャ古いですね。

■故郷編を全部見た方にはネタバレはないと思うけど、途中までの方はご注意ください。

■見始めた動機は正直クドカンです。あとは、舞台が岩手県久慈市(劇中では北三陸市)で東北大震災をわたっての話、って言うところにすごく興味を惹かれた。キャスティングとかは二の次だったんだけど、第1週を見て能年玲奈に正直腰を抜かした。オーディションで選ばれたらしいけど、こんなに役にはまってる女優さんいないだろ。能年ちゃんは今から考えると複数のドラマで見たことあるが、今まで全然ピンと来なかった。このドラマより前の年に、能年玲奈がキャラクターに選ばれたカルピスウォーターのCMが、ドラマを見た前と後では全然印象が違うのだ。我々パンピーが能年玲奈の魅力に気づいてなかっただけか、いい演出に巡り会えなかったか。

■能年玲奈以外のキャストも凄い。母親の春子が小泉今日子、祖母の夏ばっぱ(&ナレーション)が宮本信子。そして杉本哲太、荒川良々、橋本愛(実は「アキ」役でオーディションに参加していたらしい)、小池徹平、片桐はいり、でんでん、皆川猿時などなど。全部書いてるときりがないので書けないが、昔からのクドカン組、大人計画の面々、それ以外の新キャストもすごくハマっている。演劇畑がやたら多い気がするが、これはまさにキャストの勝利かな。

■演出と映像も素晴らしくいい。タイトルロールで能年玲奈がジャンプする形がまさに(‘ jjj ’)/のJとか、計算しすぎ。北三陸の綺麗な風景も低いアングルの撮影で丁寧に撮ってるし(金掛かってるな)。何より、灯台に向かって走っていくアキちゃんの子供のような走り方がたまらんですな。これはやられますよ。

■劇伴を担当する大友良英さんの曲もいいですね。特筆すべきはあの軽快なテーマソング。スカ調に80年代の歌謡曲を合わせた感じで。朝イチに聞く曲としてはいい。たまたま大友さんが劇伴を担当している映画「ぼっちゃん」を4月に観たのだけど、内容がシリアスだけにジャズのアドリブプレイ的なダークな劇伴だったので、「あまちゃん」との違いにびっくり。ワイドレンジなミュージシャンですね。それ以外にも、劇中歌「潮騒のメモリー」がまたツボ。クドカンの80年代歌謡曲のコラージュ的な歌詞(5分で書いたと言ってるがたぶん嘘だろう)にピッタリの楽曲。

■ネットでの告知、というかNHKのあまちゃんHP内で、ヒロシ(小池徹平)が制作したとされる北三陸市観光協会のHPがあるのとかすごく面白い。しかもなんか拙いHTMLを使ってるちょい前のHPっていうのがまた絶妙。自治体のHPは現在でもまだまだそういうのが残ってるけどね、実際。

■一番凄いのはやはりクドカンの脚本。「クドカン集大成」と言ってもいいくらい凄い。もちろんクドカンはまだまだ若いので「集大成」と言っちゃダメなのだが、第1期的な意味で。小ネタや下ネタ(朝ドラ的にギリギリなのか?)やサブカルネタとかを早いテンポでぶち込みまくってる。80年代歌謡曲というリソースも惜しげもなく使う。ストーリー構成もちゃんと、笑いだけではなく、泣かせどころとかその辺もきっちり15分で落としてるのだ。前に映画に詳しい方々と飲む機会があった時に、「クドカンは2時間という映画のタイムフレームには向かない。なぜなら後半ダレるから」と言った方いるんだけどさもありなん。もしかしてクドカンには15分って言うのが一番合ってるのかとも思った。オレ的にはクドカンのTVの一時間ドラマは全然面白いけど。

■でも一番ハマってるのは、われわれ春子さん世代(40〜50代)のような気もする。

■「モテキ」の大根仁監督は、「まだまだ伸ばせる要素がある」ということで、こういうツイートをされてますが。


■さてさて。今後はアキがアイドルを目指して上京する「東京編」に入るが、思いがけず相棒のユイちゃん(橋本愛)は地元に残る展開に。そして芸能事務所社長・太巻(古田新太、秋元康に激似せ)や大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と遭遇してどうなるのかと、目が離せない。しかもナレーションが夏ばっぱからアキに変更だって! なんかの暗示?

■個人的には、このドラマは3.11以降の話も描くということなので、そのへんすごく気になります。

■おまけ。どっちも根拠が無いオレ仮説ですが、「中学生円山」は「あまちゃん」の習作説→「中学生円山」。「サニー 永遠の仲間たち」が「あまちゃん」設定のヒントになっているのではないか説→「サニー 永遠の仲間たち」

泣くな、はらちゃん [ドラマ]

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■ドラマネタ連投失礼。「最高の離婚」と同じく2013年1-3月クールで日テレ系列で放送されてたドラマ。脚本は岡田惠和、主演は長瀬智也。これは見る前からすごく興味があった。「漫画の登場人物が現実に出てきて作者の女性に恋をする」という設定が斬新だし。まあ漫画の登場人物が現実に出てくる、というのは実は前例は結構あって、代表例は映画「ロジャー・ラビット」だったりする訳だけど(懐かし)。

■話の大筋は上に書いちゃったけど、三浦半島のかまぼこ工場に勤める越前さん(麻生久美子)が、日頃の鬱憤を晴らすために大学ノートに書いている漫画の登場人物「はらちゃん」(長瀬智也)が現実に飛び出してきて、越前さんに恋をしつつ現実世界の人間を巻き込んでゆく。

■SFドラマではないので、漫画の登場人物が現実に飛び出してくるロジックは一切語られてないし、それでいいと思う。脚本が絶妙なのは、はらちゃんの持ってる知識は越前さんが大学ノートに鉛筆で書いたことだけに限られているので、現実世界に出てきた時は、あたかもフォレスト・ガンプのように知らないことについて周りの人間を質問攻めにする。それによって、周りの人間は、普段常識だと考えていた言葉の意味を改めて考え直させられるという、まさに神メソッド。

■越前さんは自分と世界に対して諦めきっていて、日々受動的な労働を続けているに過ぎない。だからテーマソングは限りなく後ろ向きな歌詞なのだ(すごく共感できるけど)。でも越前さんが描いている漫画の世界の住人のはらちゃんは、神様(越前さん)が幸せになれば自分たちの世界も幸せになる。だから越前さんを励ます、だけではなく越前さんと両思いになりたくて頑張る。最終的に「自分と世界が両思いになればいい」っていうことなんだけど、こういうベタなメッセージはファンタジーなドラマで語るのが最高に爆発力がある。いや、岡田惠和さんマジで凄いっすわ。

■それだけではなく、現実にもきちんとコミットしている。第8話で現実世界に出てきたはらちゃんご一行は、テレビで世界の内戦状況や、311の被災地の映像を見て物凄くショックを受ける。「最高の離婚」だけではなく、このドラマもきちんと311にコミットしている。

■役者陣も素晴らしいです。バカハンサムをやらせたら最強の長瀬智也ももちろんだし、やはり麻生久美子はいいなあ。「モテキ」ではかなり気の毒な役を強靭な演技力でこなしてたけど、今回ドハマリです。そして忽那汐里ってこんなに殺人的に可愛かったか? 意外だったのは丸山隆平の演技力。薬師丸ひろ子は言うまでもなし。

■あまりにシナリオが良すぎてこんな本まで買っちゃいました。シナリオがいいのは当然として、劇中のビブオさんの漫画がベストマッチ。シナリオ本って最近滅多に出ないしね。

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■すごくいいドラマでした。感想をまとめたいのだけど、自分で書くより、ツイッターで見つけたこちらの方の感想で締めておく。素晴らしいコメントです。


最高の離婚 [ドラマ]

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■ドラマのエントリは、年初にhuluで見た「鈴木先生」を除くとたぶん2年ぶりくらいのエントリなのだが、これと、「泣くな、はらちゃん」という2本の印象的なドラマを続けて書く。2013年1‐3月期にフジテレビ系で放送されたドラマ。脚本坂元裕二、主演瑛太というのは、その以前に書いたエントリ「それでも、生きてゆく」と同じタッグ。見た目はぜんぜん違うドラマですが。

■非常に重いテーマだった「それでも、生きてゆく」と違い、このドラマは基本的にラブコメディ基調で、2組の夫婦(瑛太と尾野真千子、綾野剛と真木よう子)がくっついたり離れたりという話。それだけに話の筋を追うのはあまり意味がない。

■話の途中からだいたいパターンが決まってきて、各話の中盤以降から主要な登場人物4人のうちの一人が長台詞を始め、終盤で意表をついた展開になる、という水戸黄門的な定形になる。しかしさすがに台詞の名手坂元裕二。各人の台詞がなんというか心に沁みて、ラブコメであるにも関わらず思わず泣きそうになってしまう。いや別に泣いたっていいんだけれども。オノマチの長い独白は「それでも、生きてゆく」を想起させられた。

■やはりこのドラマで凄いのは、圧倒的なリアリティだろう。瑛太の面倒くさい性格とか長台詞はまあフィクションなんだけど(笑)、それ以外の演出と脚本が素晴らしくリアル。例えば瑛太と真木よう子が居酒屋でワインを飲むシーンがあるのだが、今までのドラマだと居酒屋で飲むのはビール、チューハイか日本酒。ワインを飲むなら小洒落たレストランというのが相場だったかと。でも実際普通の人は居酒屋でガンガンワインとか飲んでるしね。

■何より凄いのが、瑛太とオノマチの出会いが311の日の帰宅難民ということ。オレもその日帰宅難民で3時間半歩いて帰ったのだが、すごくリアリティがある(まあ、オレの場合はそういう出会いはなかったが)。これって、被災地でない首都圏の住民の被災地との距離感覚(ひとごとという意味ではない)を最適に表していると思う。今年年初に公開された映画「東京家族」では、妻夫木聡と蒼井優のカップルが三陸のボランティアで知り合ったという設定になっていたが、どうにも取ってつけた感が拭えなかった。

■あと、安易にセックスを話の枷にしてないところも好感かな。瑛太と真木よう子はあと一歩でそういう関係にならないし、オノマチと綾野剛はキスはするけどそれ以上はなし。ちゃんと真面目にドラマ作ってるかなと。最終回の瑛太とオノマチの不器用なキスもまさに名シーン。やっぱ坂元裕二は純愛好き?(いや、褒めてます)

■結局、2組とも元の鞘に収まるという結末なのだが、それは上辺だけで不穏な要素をはらんだままという表現で終わる。そこも含めてリアリティのある恋愛ドラマです。そう、「それでも、生きてゆく」が恋愛ドラマだったのと同様に。


鈴木先生(ドラマ) [ドラマ]

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■2011年4−6月にTV東京系で放送されてたドラマ。オンエア時には全く見てなくて、その後評判が良かったらしいということで見ようと思っていたのだがまとまった時間がなく、やっと今年の正月帰省時にhuluでまとめて見た。ほぼ2年遅れですスイマセン。原作は漫画とのことだけど未読。

■見てビックリ。メチャクチャ面白いじゃん。間違いなく2011年の連ドラで一番だろう(←遅いって)。主人公の鈴木先生(長谷川博己)と彼の受け持つ2年A組の生徒たちの学園ドラマなのだが、ストーリーは非常に深くかつ高いエンタテインメント性を維持している。

■教育ものにとどまらない深い示唆を含んでいるエピソードが多い。多数決は常に正しいのか。自由な討論というのは常に最良の道なのだろうか。自分の価値観を絶対的なものとして、異なる価値観の排除には相手の人格を攻撃しても良しとするのはしてはならないとか。

■舞台が中学校の話なので、性教育の是非についても話が出る。避妊を教えるのは妊娠や性病を防ぐ為にやるべきか、むしろ若年層のセックスを助長する結果にならないかとか。
これに対する鈴木先生の解は、セックスでの避妊はしないべきでも必ずするべきでもなく、避妊をするという選択肢が「与えられている」。是でも否でもない、と。なるほどと得心した。

■といっても鈴木先生はクラスの美少女生徒の妄想をしたりモノローグが長かったりと、やたらおかしかったりもする。さすがメインライターは古沢良太さん(「Always三丁目の夕日」「リーガル・ハイ」)。

■珍しくベタ褒めしますが、役者陣も凄い。主役の長谷川博己(正直「家政婦のミタ」より全然いい)はもちろん、途中でいなくなるがぐっさん(山口智充)の壊れっぷり、田畑智子のチャーミングさ。そして同僚教師の富田靖子が怖すぎる! 鈴木先生の恋人役の臼田あさ美なんてこんな可愛かったっけ?と思ったし、メインの女生徒の土屋太鳳もイイなあ。

■タイトルバックで生徒たちが入れ替わり立ち替わり眼鏡を掛け替えるのも印象的だし、ロッカトレンチのテーマ曲も軽快。テーマ曲といえばエンディングの馬場俊英「僕が僕であるために」(尾崎豊のカバー)もドラマの雰囲気に合ってる。



■オンエア時の平均視聴率が2%ちょい(プライムタイムで!)だったそうだが、打ち切りをしなかったテレ東の英断に拍手。このドラマ、是非多くの人に見て欲しい。DVDのレンタルは大変だけど、huluなら全話見れるので。hulu未契約の方なら、一応契約して無料期間の2週間中に全話を見てそのあと解約という荒技もあり。怒られそうだがw

■つーわけで、結果として今週土曜から公開の映画版観に行きますw まだ興奮状態が残っていてあまりうまくまとめられなかったので、知人のK先輩のブログもぜひ参照してください。

モテキ(ドラマ) [ドラマ]

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■「モテキ」くどくて申し訳ありません。前回のエントリの後に、友人のW君から、「ドラマも見ないと」というコメントを貰ったので、WEBで(公式オンデマンド。日本の著作権料はJASRACリードではオカシイとは思うが)日曜日に見ました。半日以上費やしましたが。ええバカです。内容に関しては前回のエントリがクドいくらいだったので短くします。

■順序はどうでもいいと思うけど、これはドラマと映画の両方見たほうがいいなと思った。映画のフレームは基本的にはドラマのお作法をなぞってるので。別に映画版を先に見ても、ドラマ版を後に見たことの失望感はないと思われる。

■しかしこのドラマは冷静に考えると、テレ東の深夜枠としては異常なまでの豪華キャストだ。まあだから「記念」とかついてるのかも知れんが。森山未來、いまや演技派若手トップと言われる満島ひかり、松本莉緒。あとオレは苦手だが「国際派女優」菊地凛子とかね。

■満島ひかりの「セリフ」的ではなく日常的な言語感は天性のものなのか。それを生かして大根仁監督はディレクションしてたと思うし、それとカラオケのシーンとかは絶対にドラマ「それでも、生きてゆく」に影響を与えてるはず。確信しました。なんで、「それでも、生きてゆく」で満島ひかりに感動した人は、このドラマを観ても受けると思う。

■スケベの大根監督は、「女性をキレイに見せる」ということに関しては達人だと思う。ドラマ版の女優さんも皆キレイだったもの。除く菊地凛子。オレは彼女の出ている映像でキレイと思った事は一度もない。「ノルウェイの森」だって共演の水原希子のほうが全然可愛かったくらいだし。ファンの方すいません。

■この女優陣の中で、野波麻帆と満島ひかりには映画版にもオファーしたそうだけど、二人から丁重な断りがあったのと、主役の森山未來の「ドラマ版とは別の話にしたい」という意見でなしになったそう。

■追記。このエントリ書いてから約1年になるけど、2012年になってから原作漫画も全部読んだので、そのうち「モテキ(漫画)」のエントリも書こう。いつになるかは分からないけど。

■2014/1追記。年末に映画版「モテキ」が地上波で放映されていたので、改めてドラマ版を見返してみた。いや、大根さんやっぱすげえ。久保ミツロウの原作で言葉足らずだったところを映像の脚本で完璧に補完してる。待つよ、次作。

それでも、生きてゆく [ドラマ]

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■先週木曜日に終わったドラマ。最近ドラマの感想はあまり書いてないけど、このドラマばかりは書かずにはいられない。しかも終了後一週間経ってるので記憶もこれ以上間を空けると曖昧になるし。視聴率は平均で10%切ってたみたいだけど、別にそんなのは(TV局の中の人はダメだろうが)視聴者は気にすることはない。

■脚本は全話通して坂元裕二。この人がブレイクしたのは同じくフジの月9「東京ラブストーリー」で、ヒロインのリカ(鈴木保奈美)がカンチ(織田裕二)に向かって、「セックスしよ?」という大胆な台詞で、視聴率が良かったせいもあり一躍有名に。ただこの「セックスしよ?」って言う台詞は原作の柴門ふみの漫画にもあったので坂元だけの功績とは言えないかな。そのせいかどうか知らないけど、坂元裕二と言えば、っていうか野島伸司とかも含めて台詞のクサさとか例えのあるある感に拘った書き手が多かったと思う。野島伸司の例でいうと、映画「君は僕をスキになる」のなかの台詞で、「僕は君を好きになったんだから、君も僕を好きにならないと不公平だ」…こんなの現実世界で言ったら即死である。

■坂元裕二の話続く。彼はブレイクして数作書いた後たぶん10年以上なりを潜め(そのあいだTMNの作詞とかもやってたみたいだけど)、2004年くらいに再度表舞台に登場する(間違ってたらすみません)。「トレンディ・ドラマの貴公子」フジのプロデューサー大多亮が現場復帰したのに併せて、月9「愛し君へ」「ラスト・クリスマス」の脚本担当。その後もいわゆる「フジっ子」らしく、「西遊記」とかも手掛けてる。その中で「わたしたちの教科書」というドラマは、社会派を目的として書かれたようで(菅野美穂、伊藤淳史、ブレイクちょい前の真木よう子が出てた)途中までは見応えあったんだけど、終盤若干失速気味。友人のTVプロデューサーMさん曰く、「彼は野島伸司に対抗しようとしてたんじゃないかな」と。それは深く同意した。その後も「太陽と海の教室」とか冴えないドラマを書き続け、本人としては忸怩たるものがあったのかも。

■しかし坂元裕二は、「フジっ子」という評判をはねのけるように、昨年の日テレのドラマ「Mother」で高い評価を得る。主役が松雪泰子で、子役が今「マル・マル・モリ・モリ」でブレイクしてる芦田愛菜ちゃん。擬似親子の物語で面白いところはあったのだけど、女性同士の話だと男の私は正直言って自己を投影できるキャラがなかったし、話も重かったので全部は見ていない。

■やっとドラマ本編にたどり着く。この時期だと関係ないコメディものとか恋愛ものに走るのが一般的なんだろうが、敢えてこのドラマをリリースしたフジの担当者たちには敬意を表する。

■主役の瑛太と満島ひかり。素晴らしかったですよ。申し訳ありませんお二人ともナメてました。瑛太は今風のトレンディ俳優として、満島ひかりは、それまで殆ど見たことがなかったので見たことのある映画「悪人」のチャラい女優さんという感想で。特に満島ひかりに関しては、あの「悪人」という映画上、徹頭徹尾チャラい自己中な女をやらざるを得なかった、ということに初めて気づいた。

■このドラマは、一般的には「重い現実を受け止めた被害者、加害者の両方の再生の物語」っていう風に捉えられてると思うのだが、それは違う。「究極の純愛ストーリー」なのだ。陳腐な話で「ロミオとジュリエット」みたいな恋愛の枷は現世界にはそんなにない。じゃあ視聴者が納得できる「枷」っていうのは何だ? ってとこから始まった話なのではないか? だとしたら、よくある「被害者と加害者の親族」って言う訳じゃなく、もっと突っ込みきれない「幼女殺人」だったら? なのではと。勿論以下も含めて個人的な妄想である。

■かつ坂元裕二は、主役二人に日常的に近いセリフ(世間話)をダラダラ喋らせて、ピンポイントでキーワードを喋らせる手法を取っていると思う。これを役者二人のアドリブと取る向きも結構あるけど、個人的には違うと思うな。今回に関しては全て計算上のことだろう。

■もう放映も終わったのでネタバレも大丈夫だろうけど、最終回の後半は、別れざるを得なかった瑛太と満島ひかりの文通ふうのモノローグが続く。しかしそれは実は文通ではなく、お互いの思いを神社のおみくじよろしく、お互いの近くの木に結びつけてただけ。なんと切ない。

■坂元裕二さん、現時点での代表作は出来ました。大丈夫です。が奥さんが森口瑤子さんていうのは許せません。前述のMさんも同意見です(笑)。

■全文改めて読むと、素人ファンの超上から目線がイタイ。ご容赦下さい。愛あるがゆえ。

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